手元のスキャンデータを読み込ませた
見積の初版ができた段階で、AI秘書が社内のフォルダや過去のやりとりを探しましたが、この現場のスキャンデータは見つかりませんでした。その後、社長の手元に、以前撮ったまま見積には使っていなかった3Dスキャンが残っていて、社内チャットに貼られました。使っていたのはScaniverseという無料の3Dスキャンアプリで、スマホのカメラとLiDAR(レーザーで距離を測るセンサー)で部屋の形をテクスチャ付きの3Dモデルとして書き出せるものです。
普段であれば、見積の精度を上げるにはまず現地調査に入り、寸法を測り、壁を叩いて下地の状態を確認します。ただ今回は「まず手元のデータだけでどこまで判断できるか」を先にAI秘書にやらせてみることにしました。
まず図面と突き合わせて場所を特定する
最初にやったのは、スキャンから取り出した室内の輪郭と、発注元から届いていた平面図を突き合わせる作業です。スキャンから出した床面積と図面の床面積の差は0.3%でした。幅と奥行きは壁の測り方の違いで1〜5%ずれましたが、面積がほぼ一致したことから、このスキャンが見積中の現場のものだと判断できました。
これは地味に見えて重要な工程です。スキャンデータだけを渡されても、それがどの図面のどの部屋に対応するかが曖昧なままだと、後続の判断がすべて仮定の上に積み上がってしまいます。先に「場所の特定」を数値で済ませたことで、以降の判定に根拠を持たせられました。
テクスチャ付きレンダリングで壁ごとに仕上げの有無を見る
次に行ったのが、スキャンデータをテクスチャ付きのまま、壁4面それぞれに向けた4枚と、天井の見上げ・真上からの俯瞰の2枚、計6枚の画像に書き出し(レンダリングし)、壁ごとに「仕上げ材が残っているか、下地や躯体がむき出しになっているか」を判定する作業です。
結果は壁ごとにはっきり分かれました。
- スキャン上の奥側(裏の動線側)の2面: 塗装仕上げの壁や器具・スイッチ類が残っており、既存仕上げが残っている(いわゆる居抜きに近い状態)
- 入口側と思われる2面: コンクリート打放しの壁と柱、壁に直付けの配線や分電盤がそのまま見えており、仕上げが撤去済みでスケルトン(躯体むき出し)の状態
同じ部屋の中でも壁によって状態が違う、というのは現地調査の担当者からすると当たり前の話かもしれません。ですが、新たに現場へ行かずに、手元のスキャンの画像だけでここまで壁ごとに切り分けられたのは、正直なところ想定以上でした。
見積の本体工事が約2割増えた
この判定結果を見積に反映させたところ、本体工事の金額が初版より約2割増える計算になりました。増えた分のほとんどは、初版で「全面居抜き」と見ていた外周の壁の一部がスケルトンだったためで、軽量鉄骨の下地とボードの新設、むき出しの配線の撤去、分電盤の移設調整、産廃の増加が加わりました。ただし、どの壁がスケルトンかは決めきれていないため、外周の壁の半分と仮に置いた暫定の数字です。逆に言えば、現地で確かめる前の段階でこの差分を把握できていれば、見積提示のタイミングで手戻りが起きるリスクをかなり減らせることになります。
現地で確かめることは5点に絞れた
もちろん、これで現地調査が丸ごと不要になったわけではありません。一番大きいのは、スキャン上の壁と図面の壁番号(図面で壁ごとに振った番号)の対応です。スキャンの向きが実際の現場の向きと揃っていないため、画像に写った壁が図面のどの壁にあたるかを機械的には決められませんでした。ほかに、既設の空調の台数、入口のサッシとシャッターの状態(画像が白飛びして判読できず)、給排水の配管の経路、図面の記載と食い違った天井高も、スキャンだけでは確定できませんでした。どれも現地で一度見れば決められる内容です。
つまり今回のプロセスが示していたのは、「AIが現地調査を代替する」という話ではなく、「現地に行って何を確認すべきかを、行く前に絞り込む」という使い方です。壁の状態判定と概算の見積差分までを先に済ませておけば、現地調査は、この5点を確かめる短い作業に絞れます。逆に、どこを重点的に見るべきかが分からないまま現地に入ると、全部の壁を同じ密度で確認することになり、時間も見落としのリスクも増えます。
まとめ:AIは「どこを人が見るべきか」を絞る道具
スマホ1台で撮れる3Dスキャンデータでも、図面との突き合わせとレンダリング比較を組み合わせれば、新たに現地へ行く前に壁ごとの状態判定と見積への影響の目安まで出せることが今回わかりました。ただしそれは「人の現地確認が不要になる」という話ではなく、「限られた現地調査の時間を、本当に確認すべき場所だけに使えるようにする」という話です。AIに丸投げするのではなく、AIが絞り込んだ疑問点だけを人が最後に潰す、という役割分担が、結果的に一番手戻りの少ないやり方だと感じています。
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