居抜き物件、見に行ったことありますか。
前のテナントの厨房、什器、エアコン、内装がまるっと残っていて、「これ全部そのまま使えます。造作譲渡料300万円です」と言われる。スケルトンから作れば1,200万円かかる店が、300万+ちょっとの手直しで開けられる。そりゃ飛びつきますよね。
正直に言うと、私も昔、お客さんの居抜き案件で痛い目を見ました。譲渡契約が済んだあとに現場に入ったら、グリストラップが割れていて、給排気ダクトが現行の消防基準に合っていない。追加で210万円。お客さんは「話が違う」と青くなり、私は「契約前に呼んでほしかった」と頭を抱えました。
ラポルタは世田谷区で内装工事をやっています。居抜きの改装は年に何件も入りますが、トラブルの8割は「契約書を交わす前に現場を専門家に見せなかった」ことが原因です。逆に言えば、順番さえ守ればほとんど防げる。今日はその実務を、隠さず全部書きます。
造作譲渡契約の落とし穴
まず大前提から。造作譲渡契約は、貸主(オーナー)ではなく前のテナントと結ぶ契約です。ここが全部の混乱の根っこにあります。
登場人物が3人いるんですよ。貸主・前テナント・あなた。そして契約は2本走る。貸主との「賃貸借契約」と、前テナントとの「造作譲渡契約」。この2本が噛み合っていないと事故ります。
ぶっちゃけ、一番多い事故はこれです。
- 造作譲渡契約を先に結んでしまう — 賃貸借の審査に落ちたら、入れない店の設備代だけ払うことになる
- 貸主が造作の残置を承諾していない — 前テナントは本来スケルトン返しの義務があり、貸主が「聞いてない」と言えば全部撤去
- 所有権の所在が曖昧 — エアコンやショーケースがリース品で、リース会社に引き上げられる
3つ目、笑えないくらい多いです。前のオーナーが善意で「使っていいよ」と言っていても、法的な所有権が本人にないケース。厨房機器のリース残債が180万円残っていて、譲渡後にリース会社から連絡が来た事例を実際に見ています。造作の買取はモノを買う行為なのに、売り主が本当に売れる立場かを誰も確認していない。ここが居抜き契約で最も注意すべき点です。
契約前に必ず確認する3点
- 貸主の書面承諾(口頭はダメ、絶対に紙で)
- 譲渡対象物の所有権証明 — リース契約書か購入時の領収書
- 賃貸借契約との前後関係 — 同時締結、または「賃貸借成立を停止条件とする」の一文
3番目の一文が入っているだけで、最悪のケースが消えます。不動産屋さんが渋ることもありますが、押し切ってください。あなたのお金を守る一行です。
設備の状態確認と原状回復
「使えます」と「使い続けられます」は別の話です。
見た目がきれいでも、設備には寿命があります。ざっくりの目安で言うと業務用エアコンが10〜13年、給湯器が8〜10年、冷凍冷蔵庫が7〜10年。前テナントが8年営業した居抜きなら、引き継いだ設備の半分は数年以内に交換時期が来ると思っておいたほうがいい。
現場でチェックすべきは、パッと見でわからない部分です。
- 給排水:グリストラップの躯体割れ、排水管の勾配、詰まりの履歴
- 電気容量:契約アンペア。IH導入や機器追加で足りなくなる。増設は幹線からで50万〜150万円コース
- 給排気:ダクトの経路と能力。飲食は消防・保健所の基準が絡む
- 防水:厨房の床防水。ここが切れていると階下漏水で数百万の話になる
そして、これが一番の爆弾です。原状回復義務の引き継ぎ。
造作を譲り受けるということは、多くの場合「前テナントが作った内装も含めてスケルトンに戻す義務」まで背負うことを意味します。自分が1円もかけていない厨房設備の撤去費を、退去時にあなたが払う。20坪の飲食店でスケルトン返しは150万〜300万円が相場です。
契約書の原状回復条項、必ず読んでください。「引渡時の状態に戻す」なのか「スケルトンに戻す」なのか。この2つは金額が3倍違います。前者にできるなら、現況の写真を撮って契約書に添付しておく。これだけで退去時に揉めません。
譲渡価格の妥当性
「300万円は高いのか安いのか」。よく聞かれます。
造作買取の相場を言うと、10〜20坪の飲食店の造作譲渡料は150万〜500万円あたりが中心。ただし、これは目安として役に立たないことのほうが多いです。理由は単純で、価格が「前テナントがいくらかけたか」で決まっていて、「あなたにとっていくらの価値があるか」で決まっていないから。相場という言葉に引っ張られすぎないよう注意してください。
前テナントは1,200万円かけた。だから300万円なら破格でしょう、という理屈。でもあなたがバーをやるなら、ラーメン屋の製麺スペースは価値ゼロです。むしろ撤去費でマイナス。
判断の軸はこうです。
「その設備を今からスケルトンで揃えたらいくらか」から「使わない設備の撤去費」と「交換が必要な設備の更新費」を引く。
例を出します。譲渡料300万円の物件で、
- 新品で揃えたら相当額:850万円
- ただし使う設備は6割:510万円
- 使わない設備の撤去:▲60万円
- 寿命間近のエアコン更新:▲120万円
- 実質価値:330万円
これなら300万円は妥当。でも撤去と更新が合わせて300万円だったら、実質価値は210万円になって払いすぎです。この計算、電卓で10分です。でもやらずに契約する人が本当に多い。
値引き交渉のコツも一つ。**「高いから下げて」ではなく「この設備は使わないので撤去費がかかる。その分を引いてほしい」**と、根拠を数字で出す。前テナントは早く退去したいので、根拠のある減額には応じやすいです。
引き継ぎ時の必須確認
契約直前、現場での最終チェックリストです。ここを詰めておけば、引渡後の「聞いてない」がほぼ消えます。
- 譲渡物件リストを作る — 「厨房一式」はNG。メーカー・型番・数量・製造年まで書き出す。写真も全点撮る
- 設備を全部動かす — エアコン冷暖房、給湯、コンロ着火、換気扇、冷蔵庫。通電して実際に回す
- 図面と鍵をもらう — 電気・給排水の図面。無いなら追加調査費を見ておく
- 保健所・消防の要件を確認 — 業態が変わると基準も変わる。前が飲食でも安心できない
- 看板と外装の権利 — 袖看板の位置は貸主の許可物件が多い
- 契約不適合責任の扱い — たいてい「現状有姿・免責」。せめて隠れた瑕疵の扱いだけは書面に
最後の項目、補足します。造作譲渡は「現状有姿」つまり「今ある状態のまま引き渡す、あとは知りません」が原則です。だから引渡後に不具合が出ても、原則は自己負担。中古設備の買取と同じ理屈だと考えてください。
だからこそ、契約書にハンコを押す前に内装屋を現場に連れていってください。私たちが1〜2時間見れば、給排気の無理も、防水の切れも、電気容量の不足もだいたい見当がつきます。ラポルタでは契約前の同行調査を無料でやっています。宣伝みたいで恐縮ですが、210万円の追加工事を出したあの日から、これは絶対にやると決めました。
順番を守れば、居抜きは強い
ここまで怖い話ばかり書きましたが、誤解しないでほしい。居抜きは正しく使えば最強のコスト圧縮手段です。1,200万円が400万円になる。開店が3ヶ月早まる。その分を運転資金と広告に回せる。
大事なのは順番だけです。
- 物件を見つける
- 内装屋を連れて現地調査(契約前!ここです)
- 実質価値を計算して価格交渉
- 賃貸借契約と造作譲渡契約を同時、または停止条件付きで
- 譲渡物件リストと写真を添付して引渡
2番を飛ばすと、あとの全部が博打になります。
世田谷、渋谷、目黒あたりで居抜きを検討中なら、契約前にご相談ください。図面がなくても、写真と物件資料だけでも一次判断はできます。「この物件、どう思いますか」の一言で構いません。
物件との出会いはタイミングです。でも、そのタイミングで慌てて判断しないための準備は、今からできる。一緒にやりましょう。
